糖尿病の診療をする上で尿検査はとても大切です。三大合併症の一つである腎症の診断に役立つからです。健康な人の尿にタンパクは検出されませんが、糖尿病になってある程度の年数がたつと、試験紙法という簡易検査でも陽性になります。実はこの状態は第1期から第5期まである糖尿病性腎症の病期のうち、第3期にあたります。タンパク尿があれば残念ながら腎症は相当進行しているのです。検診結果を見るときは血液検査だけでなく、ぜひ尿検査にも注目してください。腎症をもっと早期に診断するための方法として、尿中アルブミン検査があります。粒子の細かいタンパクを測定するもので、これなら第2期から診断できます。腎症は透析にまで至る恐ろしい合併症ですが、早く発見できれば進行を阻止する手立てを講じることが可能です。
夏休みに旅行を楽しまれる方も多いことでしょう。今回は海外旅行で注意すべきポイントについてまとめてみます。
「エコノミークラス症候群」という病名をよく耳にします。身動きの出来ない座席に長時間座ることで血栓が生じ、次に体を動かした時にそれが詰まって脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞などを起こす疾患です。体全体を動かすことは無理でも膝から下、足首から先を時々動かしておくことが予防になります。機内のドリンクを頼むときは、アルコールは避けお茶などで水分補給をしておくといいでしょう。
インスリン注射で治療中の患者さんはインスリンの機内持込に注意して下さい。最近はテロ対策で診断書が必要になることがあるのです。海外旅行の予定のある方は主治医に依頼して英文の診断書を用意してもらいましょう。さらに症状の急な変化に備え、処方や病状を記載したカードを作成してもらうとよいでしょう。インスリンのカートリッジはガラス製のため、トランクに入れておくと衝撃で破損する可能性があります。またトランクを紛失することも考えに入れて手荷物にしておけば安全です。
糖尿病の合併症の一つに神経障害があります。
自覚症状として足の裏や指先のしびれが現れます。慢性化すると長時間正座をした時に経験するようなジンジン、ピリピリした感覚が続きます。さらに進行すると、知覚鈍麻といって痛みを感じにくくなります。傷があっても自覚し難く、それが発端となって、足の一部を切断するような重い足病変を起こす危険があるのです。
当院では看護師によるフットケアを1回30分の予約制で行っています。神経障害の有無を判定し、足病変の進行を防止するのが目的です。ふだんの足の観察や靴の選び方も大切なポイントなので、アドバイスしています。動脈硬化による血流障害も足の病状の悪化につながるため、血糖コントロールだけでなく血圧、脂質データの改善、禁煙が対策として重要です。
タバコを1箱1000円にしても税収は変わらない、という試算があるそうです。現在吸っている方には厳しい時代がやってきそうですね。
喫煙は従来から動脈硬化を促進するため問題とされていました。特に糖尿病では疾患そのものが動脈硬化を進めるのでタバコが加わると、心臓病や脳卒中の危険度がさらに高まります。それに加えて最近の研究では1日20本吸う人たちの糖尿病発症危険度は6割増加することが示されました。受動喫煙であっても糖尿病やメタボリックシンドロームへつながる可能性もあります。
現在禁煙治療は健康保険を使って受けることができます。内服薬と張り薬があり、禁煙指導を受けながら使用すると禁煙の成功率は高くなります。当院は禁煙治療の認定施設に指定されています。認定施設には禁煙治療専任の看護師がいますので、適切なアドバイスを受けながら禁煙プログラムを進めることができます。
1000円になってからやむなく、ではなく健康のために今決心してみませんか?
糖尿病の患者さんには血栓症が起こりやすいといわれます。
ひとつには早期より動脈硬化が進行するからだと考えられます。当院では頚動脈エコー検査を行いますが、糖尿病の患者さんでは初診時すでに血栓の原因になるプラーク病変を認めることがあります。発症前の予備軍の段階から動脈硬化が出現することが、研究により明らかになっています。
さらに糖尿病では高血糖のため血液が粘りを増し、血栓ができやすくなります。ことに夏場は汗をかき、水分が失われやすくなるため要注意です。脳梗塞も脱水が引きがねになることがあるのです。予防のためにふだんより多めに水分を取るように心がけましょう。
インスリン治療は特別なもの?
糖尿病の治療薬には経口薬とインスリンがあります。インスリンは注射ということもあって特別なものという先入観が一般に強いように思います。
特に長年経口薬で治療してきた方がインスリンに変更となる場合に抵抗が強いことをよく経験します。
そもそも糖尿病を発症した時点で膵臓からインスリンを分泌する能力は相当落ちています。ところが現在主力となっている経口薬は、その弱った膵臓を刺激してインスリンを搾り出すことで不足を補います。「やせ馬に鞭」という表現がよく当てはまるように、このやり方には無理があって平均10年程度が限界です。膵臓に負担をかけない経口薬の開発も進んでいますが、使えるのはもう少し先になりそうです。
当院では1日1回からの注射開始を選ぶ方が増えています。これなら患者さん自身が都合のよい注射時間を選べますし、入院せず外来で始めることも可能です。血管注射と混同している方がありますが、インスリンは皮下注射で特別なテクニックはいりません。痛みも想像よりはるかに少ないものです。
感覚的な好き嫌いではなく、ご自分の病状に合った治療法を選ぶことが最優先と考えます。
カロリーオフやゼロカロリーと表示されたドリンクをコンビニの棚で見ることが多くなりました。たいていは砂糖、ブドウ糖の代わりに人工甘味料が使われています。甘さは砂糖の数百倍ありますが、それ自体にはほとんどカロリーはありません。
ダイエットの強い味方といえそうですが問題点もあります。人工甘味料を長い年月、とり続けた場合の影響についてはまだ明らかではありません。大量摂取で肝障害を起こした例もあります。
人間の脳には甘さを感じ取って、からだに満足感を与えるスイッチが存在することが明らかになっています。人工甘味料は舌には甘さを感じさせるのですが、自然の糖とは違い脳の満足スイッチを押すことはしません。そのため結局は他に糖質を摂取してしまい、肥満につながる恐れもあります。太古より使い慣れた自然食材に勝るものはない、ということかもしれません。
現在ジャヌビア、グラクティブ、エクアという商品が使われています。
比較的軽症の糖尿病に使いやすい薬という評判から、すでに多くの患者さんに処方されています。使用経験のない新薬は慎重に、と以前にも述べましたが、その後低血糖の副作用が予想外に多く報告されました。DPP4阻害薬自体はマイルドな効き味なのですが、
既存のSU薬に併用すると相乗効果で血糖を下げすぎることがあります。
特に高齢者、腎機能障害のある方たちは注意を要します。併用を始めるときには状況に応じてSU薬を減量するよう、学会より勧告が出ています。似た作用機序でさらに効果の強いビクトーザという注射薬も発売されています。すでに服薬中の方、これから処方される方は主治医と相談して、特に処方開始初期には安全のために低血糖症状が起きないかよく観察してください。